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子どもたちの“未来”を、地域でつくる場所──つなぐ子ども未来 代表理事・安藤 綾乃さんインタビュー

2025.11.26

野菜遺産プロジェクト

野菜遺産プロジェクト × 子ども食堂コラボ企画「誰かのためになる家庭菜園」特別対談

名古屋市昭和区にある「つなぐハウス」。
そこは、子どもたちが安心して過ごし、多世代の人たちが出入りし、自然と会話や笑いが生まれる“地域のリビング”のような場所です。
この拠点を運営するのが、一般社団法人つなぐ子ども未来

団体が掲げる理念は、「子どもを中心とした、誰もが取り残されない持続可能な地域共生社会をつくること」。

子どもの孤立、家庭の困難、地域のつながりの弱まり——
そんな社会課題に向き合いながら、年間6,000人以上が訪れる居場所を続けています。
今回、野菜遺産プロジェクトとつなぐ子ども未来が協働で行う「誰かのためになる家庭菜園」に向けて、
代表理事の安藤 綾乃さんに、活動の背景と今回の取り組みへの思いを伺いました。


—— 子どもたちが”帰ってこれる場所”をつくりたい

子育ての孤立が、活動を始めた原点だった。

つなぐ子ども未来はどのように生まれたのでしょうか?

安藤さん:活動の原点は、私自身の第2子の出産でした。
子どもが増えることで、“自分だけで育てる”という不安や孤立感が強くなり、“親同士が支え合える場がほしい”と感じたんです。

ちょうどその頃、近所の子が毎日公園でお母さんの帰りを待っているという話を聞きました。生活が厳しい家庭で、夜遅くまでひとりでいる。その子を見守るお母さんたちが、おにぎりやおかずをそっと差し入れていたんです。

学校や制度では拾いきれない“見えにくい孤立”がある。それなら、地域で子どもたちを支えられる場所をつくろうと、2017年に月1回の子ども食堂を始めました。でも続けていく中で、月1回ではとても足りないことに気づきました。

子どもたちにも、保護者の方にも、日常の中で頼れる場所が必要。そうして、現在の常設の居場所『つなぐハウス』が生まれました。

—— 「つなぐ子ども未来」という名前に込めた願い

“子どもの未来は、地域のいろんな大人たちでつくれる”という想い。

団体名にはどのような思いが込められているのでしょうか?

安藤さん:『つなぐ子ども未来』には、“子どもの未来を、親だけでなく地域の大人たちみんなで育てたい”という願いを込めています。

私は、子育てを“親が完璧にやらなければならない”という考え方が苦しかったんです。だからこそ、子どもがいろんな大人と関わり、多様な価値観の中で育っていける環境が必要だと思っていました。

地域のおじいちゃん、おばあちゃん、学生さん、企業の方。
そんな人たちが子どもと自然に関わり、“ひとりじゃない”と感じられるような場をつくりたいと思ったんです。

—— 食べる、つながる、支え合う。つなぐハウスの日常

“イベントではなく、日常として混ざり合う”のが唯一無二の価値。

つなぐハウスならではの特徴はどんなところにありますか?

安藤さん:つなぐハウスは、年齢も立場も関係なく混ざり合う場所です。
たとえば、
・放課後に来た小学生の横で
・学生ボランティアが宿題を見ていて
・近所のおばあちゃんが編み物をしながら話に混ざって
・子育て中のお母さんが夕ご飯を作っている
そんな光景が“特別なイベントの日”ではなく、日常の中にあります。

社会制度の多くは“対象が分かれている”んです。
子どもだけ、親子だけ、高齢者だけ、障害者だけ…。
でも、人の暮らしはそんなに区切れませんよね。

だからこそ、私たちは“混ざり合う日常”を大切にしています。

また、常勤スタッフは3名の小さな団体ですが、年間200名以上のボランティアさんに支えられています。
『支援する側・される側』ではなく、誰もが誰かに支えられ、誰かを支える仲間として関わる、そんな関係性がつなぐハウスの強さだと思っています。

—— 子どもたちに“知らない野菜”との出会いを

「こんな野菜があるんだ!」という発見は、食を超えた学びになる。

今回の「誰かのためになる家庭菜園」企画では、どんな体験を届けたいですか?

安藤さん:子どもたちは、普段見ている食材でも“実は知らないこと”がたくさんあります。
卵の薄皮を初めて見る子もいれば、丸ごとの魚に驚く子もいます。

そんな子どもたちが、家庭菜園で育てられた珍しい野菜や季節の野菜に出会うのは大きな体験です。

そして今回の企画の魅力は、“作り手の顔が見える野菜”が届くこと。

誰が、どの畑で、どんな思いで育てたのか。
その背景まで一緒に届くことで、子どもたちの興味や愛着は大きく変わります。

食べることは、単なる栄養ではなく、社会を知る学びにもなります。
“こんな世界があるんだ”と感じてもらえる時間にしたいです。

—— 野菜遺産PROJECTメンバーへのメッセージ

あなたの野菜が、子どもたちの“初めて”をつくります。

コミュニティのみなさんへメッセージをお願いします。

安藤さん:今回の取り組みに関わってくださる皆さん、本当にありがとうございます。

いまの子どもたちは、野菜や自然に触れる機会がとても少なくなっています。だからこそ、今回のように街の中で“食を知る体験”ができるのはとても貴重です。

家庭菜園で育てた野菜には、手間も、愛情も、物語も詰まっていますよね。その背景までも、ぜひ子どもたちに届けてほしいと思います。

あなたが育てた野菜が、子どもたちの“初めての味”や“初めての発見”につながります。
一緒に、この取り組みを温かいものにしていけたら嬉しいです。

—— 「地域と食卓をつなぐ未来」を広げたい

小さな食卓をていねいにつくることが、支え合う社会につながる。

つなぐ子ども未来として、今後の展望はありますか?

安藤さん:私たちの食堂は大規模ではありません。
でも、だからこそ “顔が見える距離で、一緒に作って、一緒に食べて、一緒に笑う” ことを大切にしています。

今回のように、地域の方が育てた野菜が入ってくることで、食卓の会話が増え、発見が増え、つながりが広がる。
そうした“やさしい循環”がもっと地域に広がればいいなと思っています。
これからも、子どもを中心に、誰もが取り残されない地域をつくるために、活動を続けていきたいです。

おわりに

つなぐ子ども未来の活動は、“子どもを取り巻く環境を、地域全体で支えていく”という未来の形そのものです。
今回の「誰かのためになる家庭菜園」企画をきっかけに、家庭菜園ユーザーと子ども食堂、地域の食卓が自然とつながり、あたたかい循環が生まれることを願っています。

あなたの育てた野菜が、子どもたちの未来にそっと光を届けます。